老舗めぐり

 先週のことだが、京都市内での学生時代から続いている友人と、老舗めぐりをしてきた。

 

その友人の仕事は介護職なので、ちょうど、みなみ会館で上映されてる音楽療法がテーマの『パーソナル・ソング』を観せてやろうと思ったのだが、時間が合わず急きょ予定を変更して、かねてから行きたいと思っていた居酒屋に行くことにした。

 

三条京阪で待ち合わせたのは午後三時で、居酒屋の開店である五時には早すぎる。そこで向かったのは寺町三条の商店街を上がった所にある『スマート珈琲』(昭和7年、1932年創業)。久しぶりに訪れたが、今も変わらず昔ながらの濃くのある味わいに心がなごみ会話も弾んだ。

 

その後、並びにある民俗楽器の店(コイズミ)でしばらく過ごし、五時前に川端三条通りから東山通りまでの中間地点の南側にある居酒屋『伏見』(昭和30年、1955年創業)に向かった。店構えはかなり古ぼけているのだが、開店前にすでに人が並んでいる。名物女将と思しき女性がアルバイトと一緒に出てきて、打ち水をした後に店内に客を案内した。中は使い込んだ二十席ほどのカウンターのみで、(二階には予約のみの座敷があるらしい)狭い厨房には職人が4人ほどみえる。すぐに満席になり、次々と混めは1時間で退席するようになっているようだが、2時間近く過ごさせてもらえた。新鮮な材料に舌鼓をうちながら会話に夢中になっていると、女将の「鱧の天ぷらは誰?返事しよし!」と叫ぶ声に気付き、私は思わず大声で「ハイ!」、店内に笑いが広がった。

 

勘定をすませたが、時間はまだ午後7時まえ。友人はむかし、私に連れて行ってもらったという三条寺町商店街を下がった所にある、バー『京都サンボア』(大正7年、1918年創業)に行こうと言いだした。すでに先代は亡くなっており、あの頃は先代の下で修行中だった息子も、白髪の親父になっていた。お決まりの極上のハイボールを注文したが、突き出しがピーナツからえびせんに変わっていて少し残念。あの頃はピーナツの皮は床に落とすのが礼儀で、その訳はその油分が掃き掃除のときに、床を輝かせるということだった。

 

 

今思えば、気心の知れた友人と過ごした三軒は、結果的に亡き師匠の姿を蘇らせる場所ばかり(驚)

 

学生のときからコーヒー専門店の師匠(独立まえの店長時代の師匠)の下で、アルバイトとして働いた身には『スマート珈琲』の味と店内の雰囲気は、当時の情景を心地よく思い出させてくれた。

 

居酒屋『伏見』は、女子のアルバイトが入ると、師匠はかならず『伏見』に連れていっていた。長年、なぜ男子は誘わなかったのだろうと思っていたのだが、昨日ふと「もしかすると、あの女将が若かった頃、その活き活きとした接客術を女子アルバイト達に学ばせていたのではないか・・・」と思ったのである。

 

そして、バーの『京都サンボア』は、学生アルバイト時代に師匠が男の独り遊び(せめて二人遊びかな)を教えてくれた、締めの店である。まず、河原町で好きな映画を観る。そして今でいうスーパー銭湯に行き汗と疲れを流し、四条河原町通りから一本筋道に入った裏寺通りにあるカウンター8席ほどの『杉屋』(今は亡き父が出て来た時に、ふたり切りでの最初で最後のお酒を飲み交わした店。今は廃業し通りの店並みも一変している。当然ながら店主も亡くなっているだろう。)という小料理屋に行って舌鼓を打った。ほろ酔い気分で、ぶらぶらと寺町通りを上がり、頑固職人肌の先代マスターの『サンボア』で、仕上げのハイボールを飲むという、男の綺麗な遊びを教わったのである。

 

何を基準に『老舗』と呼ぶのかは知らないが、若く活きの良い時代に怒鳴られながら修行した思い出は、知らず知らずのうちに、当時を彷彿させる場所を巡らせた。

 

人は真剣に愛ある学びをもらった親や師の思い出から、一生放れられないのかな・・・

 

 

  ※各店の創業年度はインターネットでの検索より 

 

 

 

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コメント: 4
  • #1

    むっちゃん (月曜日, 20 4月 2015 10:25)

    なんか、ジーンときてしまいました。
    素敵な人生、生きたはりますなぁ。。。

  • #2

    ともさん (月曜日, 20 4月 2015 16:05)

     人生って、その時は辛く必至で生きてても、
     あとから良い思い出になるみたいやね~

  • #3

    むっちゃん (月曜日, 20 4月 2015 20:42)

    それは、ともさんが誠実に生きておられる証拠だと思います。
    自分の人生に対して誠実であることは、
    人生が倍以上味わい深いものになるのだと、
    ともさんのブログを読んでいて思いました。

  • #4

    ともさん (火曜日, 21 4月 2015 07:01)

     お褒めのお言葉、照れますが、
    でも、やっぱり、とっても嬉しいです!

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